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科学的な三つの思考法

目次

背景

Elon Muskの科学的な思考法を明するブログが面白かったので科学的な思考法としてまとめた。

結論

Elonの科学的な思考方法は次の3つである。

  1. 知的客観認知(Objective Cognitive)
    • 認識するときは科学的事実で認識する
  2. 第一原理思考(First Principles Thinking)
    • 推論するときは科学的事実を基に推論する
  3. 目的達成法(Goal Achievement Way)
    • 導き出した仮説を継続的に検証する方法

知的客観認知

知的客観認知とは

  • これは自分で生み出した造語
  • 知識をベースに客観的に事物を観察して認知・解釈する事
  • Elon Muskは、事物を文字通りありのままに表現していた

イーロンマスクの話し方

暗闇を恐れる事

子供の表現方法。

Human child: “I’m scared of the dark, because that’s when all the scary shit is gonna get me and I won’t be able to see it coming.”
人間の子供:「暗闇が怖いんです。なぜなら、暗闇では恐ろしいものが襲ってきて、それが何なのか分からないからです。」

Elonの表現方法。

Elon: “When I was a little kid, I was really scared of the dark. But then I came to understand, dark just means the absence of photons in the visible wavelength—400 to 700 nanometers. Then I thought, well it’s really silly to be afraid of a lack of photons. Then I wasn’t afraid of the dark anymore after that.”
イーロン:「子供の頃、私は暗闇が本当に怖かった。でも、暗闇というのは、可視波長 (400 ~ 700 ナノメートル) の光子が存在しないことを意味するだけだと理解した。それで、光子の不足を恐れるのは本当にばかげていると思った。それ以来、暗闇を怖がらなくなった。」

  • つまり、Elonは現実を科学的な現象として理解している
  • 暗いと前が見えず予測できないから怖いというのは正解だが、事実ではない
  • 人によって暗いと怖い理由の解釈が違うから
  • 客観的事実は可視光線の光子が存在しないという現象を恐れている事

恋人を探す時間がない問題について

大人の表現方法。

Human single man: “I’d like to find a girlfriend. I don’t want to be so busy with work that I have no time for dating.”
独身男性:「恋人を見つけたいです。仕事が忙しくてデートする時間がないのは嫌です。」

Elonの表現方法。

Elon: “I would like to allocate more time to dating, though. I need to find a girlfriend. That’s why I need to carve out just a little more time. I think maybe even another five to 10 — how much time does a woman want a week? Maybe 10 hours? That’s kind of the minimum? I don’t know.”
イーロン:「でも、デートにもっと時間を割きたいんです。ガールフレンドを見つけないといけないんです。だから、もう少し時間を捻出する必要があるんです。あと5時間から10時間くらいかな。女性は1週間にどれくらいの時間が欲しいと思うでしょうか。10時間くらいかな。それが最低限かな。よくわかりません。」

  • これも客観的な事実を数字で具体的な現象として解釈している
  • 当然答えのないものだが、具体的にして何が問題
  • Don’t boil the oceanではないが、問題は具体的にすると解決する

自然現象の理解

  • これは自然現象も同じなのかもしれない
  • 雷だって天が怒っていると数百年前の人間は思っていたが、今は誰もそう考えない
  • 風だって、高気圧と低気圧の差によって生まれるという科学的事実がある
  • 月が常に同じ顔を見せるからと言って、他の星は地球中心に回っているのではない
  • 科学的な事実を知っていれば事物をある一般的な現象だと理解できる

三段階論

武谷三段階論

  • イーロンの考え方(言葉遣い)は、事物の現実、現象、本質をとらえている
  • これは日本の物理学者の武谷三男が編み出した武谷三段階論に近い

武谷三段階論の3つの段階は以下の通り。

  • 現象論的段階
    • 現象をそのまま観察し、記述する段階
    • 事象の表面的な特徴や関係性を把握する
  • 実体論的段階
    • 現象の背後にある本質や構造を探る段階
    • 現象を引き起こす要因や法則性を理解しようとする
  • 本質論的段階
    • 現象の本質を統一的に理解し、より高次の法則性を見出す段階
    • 現象全体を包括的に説明できる理論を構築する

弁証法的思考

または、三大階論という意味では、弁証法的に考える事もいいかもしれない。

  • テーゼ(正)
    • 最初の主張や状態
  • アンチテーゼ(反)
    • テーゼに対する否定や対立する主張
  • ジンテーゼ(合)
    • テーゼとアンチテーゼの対立を解消し、より高次の理解や状態に到達する段階

この思考法は次がポイント。

  • 矛盾や対立を通じて新たな理解や発展を生み出す
  • 静的ではなく動的なプロセスとして認識を捉える
  • 単純な二項対立を超えて、より複雑で包括的な理解を目指す

有名な例だと、SDGsも弁証法で作られているだろう。

  • テーゼ(正): 経済成長と開発
  • アンチテーゼ(反): 環境保護と社会的公正
  • ジンテーゼ(合): 持続可能な開発(SDGs)

まとめ

  • イーロンの考え方(言葉遣い)は、武谷三段階論のように、現実、現象、本質をとらえている
  • 特に、数字で解像度を高く捉えている
    • 数字は客観的かつ民主的(同じ解釈になる)で、かつ具体的な性質を持つ
  • これは事物を客観的かつ科学的に捉えようとしている事を示している
  • また、反論も混みで奥深く主張するときは弁証法で主張するのがいいだろう

第一原理思考

第一原理思考とは

  • 第一原理思考とは「類推ではなく第一原理から推論する」こと
  • 第一原理思考とは、あるプロセスを、「真実であるとわかっている基本的な部分にまで煮詰め(boil down)、そこから構築していく行為」の事
  • 別の言い方だと、現在の仮定を特定し、それを基本的な真実に分解してゼロベースで解決策を作成する方法
  • 類推(reasoning by analogy)ではなく、推論(reasoning by first priciples)が大事

第一原理とは

  • 第一原理とは、それ以上推論することができない基本的な仮定の事
  • 物理学でいう、エネルギー保存則のようなFirst Principleの事
  • アリストテレスは第一原理を「the first basis from which a thing is known(物事が認識される最初の基礎)」と定義した
  • つまり、デカルトではないが、疑い得るすべてのことを疑い、最終的に、完全に疑いの余地のない真実と見なせるものだけが、第一原理という事

ただし、第一原理思考では、実践的には極限まで単純化する必要はなく、1つか2つ深く考えればいい。

類推 vs. 推論

人は類推で生きている

人間は、機能を予測して形を捨てるのではなく、現在の形を予測する傾向にある。
分かりやすいのが次の疑問。

「空飛ぶ車はどこにあるか?」

  • 往々にして人は「空飛ぶ車はない」と答える
  • しかし、答えは「飛行機」と呼ばれるもの
  • 人は形(車のように見える飛行物体)にこだわりすぎて、機能(飛行による輸送)を見落とてしまう

つまり、「人々はよく類推で人生を生きている」という事。

類推と推論の違い

「どちらも別の事物から、ある事物を推し量る」という意味では共通しているが次の違いがある。

  • 「推論」
    • 「基となる事実からある事物を推し量る」こと
  • 「類推」
    • 「似た事物からある事物を推し量る」こと

つまり、「推し量る」ための根拠が異なっている。

類推と推論の例

第一原理思考:

  • 基本的な事実や原理から始める
  • これらの基本原理から論理的に推論を積み重ねていく
  • 既存の考え方にとらわれず、根本から問題を考え直す

類推思考:

  • 既知の事例や経験を基にする
  • 似たような状況や問題に当てはめて考える
  • 過去の成功例や失敗例を参考にする

推論による発明

推論による発明とは

  • 推論による発明は、事物を理解して、要素に分解して、それらを再構築する手法
  • 錬金術ではないが、理解・分解・再構築する手法

スノーモービルの例

OODAループで有名なジョン・ボイド大佐の第一原理と推論で考えてイノベーションを思いつく思考実験がある。

次の3つのものがあると想像する。

  • スキーヤーを乗せたモーターボート
  • 軍用戦車
  • 自転車

その後、これらの項目を構成要素に分解する。

  • モーターボート: モーター、船体、スキー板
  • 戦車: 金属製の履帯、鋼鉄製の装甲板、および銃
  • 自転車:ハンドル、車輪、ギア、シート

これらの個々の部品から何を作ることができるか?

1つの選択肢は、自転車のハンドルとシート、タンクの金属製の履帯、ボートのモーターとスキーを組み合わせてスノーモービルを作ること。

活版印刷の例

  • 推論による発明の有名な例は、ヨハネス・グーテンベルクが発明した印刷機
  • いわゆる、ルネサンスの三大発明(火薬・羅針盤・活版印刷)の一つ
  • 彼はワイン製造に使われるスクリュープレスの圧搾機の技術と活字、紙、インクを組み合わせて発明した
  • ちなみに、英語で出版社を指す言葉として「Press」ことがあるが、これもこの圧搾機(Pressing Machine)がベースにある

まとめ

  • 第一原理思考は類推ではなく推論する思考法
  • 類推は仮定ではなく、第一原理のような原理原則をベースに考える
  • 機能や素材を要素に分解して再構築する考え方
  • つまり、知識の木の枝葉をベースにするのではなく、幹や根をベースに考える

目的達成法

目的達成法

  • イーロン曰く、人間はハードウェアは同じでもソフトウェアが違う
  • そのソフトウェアの考え方をTim Urbanがまとめた物が以下の図

Software-full

  • 中味はいわゆるPDCAのようなもの
  • 重要なGoalにlaser focusする

次で構成される。

  • 4つのコンポーネント
    • 四角形のダイアグラムで表現される
    • 仮説
  • 3つのサイクル
    • 円のダイアグラムで表現される
    • 仮説を調整するためのデータソース

Compolents

Want Box

  • 第一に、Want Boxの中味を明確にする
  • Want Boxの中味はあるPoint AとあるPoint BのSetとなっている

Wnat Box

State Transition

Reality Box

  • 次にWant Boxと対になるReality Boxを用意する
  • このボックスには、可能なものがすべて入っている

Reality Box

Goal Pool

  • Want boxとReality Boxが重なる部分がGoal Poolとなる
  • ここに論理積にGoal Optionsが存在する
  • このGoal OptionsはあるPoint AからPoint Bに変えたい物のリストとなる
  • そこから一つ選んで人・物・事・情報などを駆使して状態を遷移させる
    • 例えば、人を雇用してPointAからPointBに変える事もできる
  • まずは一つのGoal Optionを選ぶ事がスタート

Goal Pool

Strategy

  • まず、Goalを選択したら、自分の力をどこに向けるかがわかる
  • 次は、その力を使って期待する結果を生み出す最も効果的な方法を考える
  • それが戦略となる

Strategy

Cycles

Experience Cycle

  • 目標達成戦略は、最初の試みに過ぎない
  • それは、テストに適した仮説
  • 戦略仮説をテストする方法は行動
  • 戦略に力を注ぎ、何が起こるかを確認する
  • これを行うと、結果、フィードバック、外部からの新しい情報など、データが流れ込んでくる
  • これらを基に調整を行う

Result

Evolution Cycle

  • Want ボックスの内容は仮説
  • 経験によって、自分が望んでいると思っていたものが間違っていたりすることがある
  • もしくは、気づいていなかったものを望んでいることが分かることなど
  • よって内省を通じてWnat Boxも変化する

Want Reflection

Education Cycle

  • Reality Boxもプロセスを経ている
  • 「可能なこと」は仮説
  • 世界の状況と自分自身の能力の両方を考慮する必要がある
  • そして、自分自身の能力が変化し成長するにつれて、世界はさらに速く変化する
  • 2005 年に世界で可能だったことは、今日可能なこととはまったく異なる

Reality Learning

Points

科学的に考える

  • 物理学のように「第一原理からの推論」をする
  • from the first principlesでやる
  • 洪水地質学のように先入観にとらわれず考える
  • 人間の思考プロセスは慣習や過去の経験との類推に支配されている
  • 次のような固定概念を外す
    • 「これまでずっとそうしてきたから、そうしよう」
    • 「誰もそんなことをしたことがないから、それは良くないに違いない」
  • Science is more than a body of knowledge
  • つまり、科学は知識の集合体というよりも、むしろ思考方法という事

科学に確実はない

  • 科学には公理や証明はない
  • なぜなら、確実なものなど何もないから
  • つまり、私たちが確信していることはすべて反証される可能性があるから

リチャード・ファインマン
「科学的知識とは、さまざまな程度の確実性を持つ声明の集合体です。最も不確実なものもあれば、ほぼ確実なものもあり、絶対に確実なものはありません」

  • 証明の代わりに、科学には理論がある
  • 理論は確固たる証拠に基づいており、真実として扱われる
  • しかし、新しいデータが出てくるといつでも調整されたり反証されたりする可能性がある

形而上(数学)の世界だと次になる。

  • Given: A = B
  • Given: B = C + D
  • Therefore: A = C + D

しかし、科学の世界だと次になる。

  • Given (for now): A = B
  • Given (for now): B = C + D
  • Therefore (for now): A = C + D

まとめ

  • 科学的に仮説検証をすることが大切
  • やりたい事(ある状態変化)とできる事(実現可能性がある事)の論理積がゴールとなる
  • ゴールに対して戦略(方法仮設)を練って試す
  • 試して得た実験結果に合わせてやり方や方向性を修正する

総論

総論としては、科学的かつ客観的に現実を認識して、第一原理をベースに類推ではなく推論を重ねて考える。その後に、考え出したアイディアや仮説をPDCAで科学実験していくという方法。

Cook vs. Chef

イーロンの考え方のスタイルを一言でまとめると、「コックではなくシェフ」だろう。
シェフはレシピを考えるが、コックは作業をするだけ。

  • シェフ
    • シェフは第一原理から考える(推論する)
    • シェフにとって第一原理とは生の食べられる材料
    • 新しい方法なのでレシピが存在せず、試してtrial-and-errorでレシピの仮説検証を行う
  • コック
    • 他方、コックは、すでに存在しているものを類推する
    • つまり何らかのレシピ、試してみて気に入った料理、誰かが作るのを見た料理などを基にして作業する
    • レシピは既にあるのでそれをTTPするだけ

参考文献

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